D2Cの本質を理解する
いま「D2C」というのがバズワード化しているが、それが意味するのはECサイトでメーカーが直接顧客に商品を売るというだけものではない。このドキュメントでは、D2Cとして表現されている企業が伝統的なメーカーよりも非常に早い成長を遂げた重要な成長ドライバーはなんなのか?そして既存のメーカーがD2Cから得られる知見を生かしどのような戦略を実施するべきなのかを考えてみる。
D2Cとは
まずD2Cという言葉の定義を揃えておく必要がある。D2Cとは、メーカーが消費者へ直接商品を販売することだけを意味する言葉ではない。
「D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略」によると、D2Cの辞書的な定義は以下になる。
新しい消費の価値観を持つミレニアル世代以下のターゲットに対し、ユニークな世界観を下敷きにしたプロダクトとカスタマーエクスペリエンス、SNSや店舗を通じた顧客とのダイレクトな対話、垂直統合したサプライチェーンを武器に、VCから資金調達を行い、短期間に急成長を目指すデジタル&データドリブンなライフスタイルブランド
つまりD2Cブランドは以下のような特徴を持っていることを意味する。
- 顧客ターゲットがミレニアル世代
- チャネルが直接販売、
- コミュニケーションチャネルがSNSなどのデジタルを使った顧客との直接コミュニケーション
- 成長速度が指数関数的な急成長
- デジタル技術を駆使したデータドリブンな意思決定とオペレーションの改善
- 商品の機能ではなく、世界観(ブランド)を通した総合的な体験価値を提供する
なぜいまD2Cが注目されているのか
Casperという2014年に登場したマットレスを販売するスタートアップが、急速に成長し伝統的なマットレスメーカーのシェアを奪っていく。創業初月に1億円、最初の12ヶ月で100億円、2年目には200億円に到達。2019年はじめには北米地域だけで200もの店舗を出すことに成功している。
Casper以外にもメガネ業界ではWarby Parker、スーツケースブランドのAwayなどが登場し、それらがインターネット企業のスタートアップのような急成長を行うことに成功し、ユニコーン企業(評価額が1000億円を超えるベンチャー企業)になったことから、これらの企業に共通する特徴をD2Cというワードにまとめて注目されることとなった。
なぜミレニアム世代をターゲットとするのか
ミレニアム世代とは
ミレニアム世代とは、アメリカにおいて1980年代から1990年代後半までに生まれ、2000年代に成人または社会人になる世代のことを言います。この世代の特徴として、デジタル・ネイティブ、物心ついたときからPCやスマホ、インターネットなどが身近にある環境で育っているという点が挙げられている。
人口割合の巨大さ
アメリカ国内のミレニアル世代の人口は約9000万人にのぼり、ベビーブーマー世代を抜いて米国最大の年齢層になっただけでなく労働力人口に占める割合も最大となっている。
ミレニアル世代の労働力にしめる比率は2019年時点で35%だが、2030年までに75%に達すると予想されいる。それだけでなく、ミレニアル世代は推定30兆ドルの資産をベビーブーマー世代の親から相続すると予想されている。 また教育水準が最も高い世代とされており、学士号以上の比率は同じ年齢でみるとみれミレニアル世代が40%前後に対してX世代が29%、ベビーブーマー世代は25%となっている。
つまり、人口規模や若さ、高い教育水準、さらに巨額な相続資産により今後長年米国経済を牽引する消費者層と考えられており、D2Cの急成長は伝統的な企業がいままで提供できていなかったミレニアル世代に対する価値提供をうまく実現することが大きな成長ドライバーとなるため、ミレニアル世代をターゲットとしている理由の一つになると考えられる。
EC経由での購買ハードルの低さ
D2CはECでの直接販売がメインの販売チャネルであるため、 その成長速度は対象となるユーザーがEC経由でその商品を購入することのハードルが低いことに大きく依存する。
ミレニアル世代はデジタルネイティブと呼ばれ、物心ついたころからPC、インターネット、スマホなどに触れながら育ってきた世代のため、それよりも上の世代よりもECでの購買ハードルが低い傾向にある。
このEC経由での購買ハードルの低さもミレニアル世代をターゲットしている理由の一つといえるだろう。
なぜ直接販売をするのか
- 卸や小売店に取られる中間マージンをなくすことでき、その分より低価格で販売することができる。
- デジタル経由で顧客に直接販売することで、様々なデータを取ることができ、そのデータによってプロダクト自体や各種オペレーションを最適に、かつ素早く改善していくことができる。
なぜSNSなど通じた顧客との直接コミュニケーションを重視するのか
- 直接コミュニケーションすることにより、エンゲージメントを高める手段を得ることができる
- エンゲージメントを高めることで、ユーザー自身がブランドや商品を拡散するという現象を起こすことができ、それにより伝統的なメーカーよりも低コストでユーザーを獲得することができる(仮設)
なぜ指数関数的な急成長を実現できるのか
- アメリカの場合はミレニアル世代が相当な人口ボリュームがあるのでターゲットとして成功した場合大きくスケールする
- 各種データを取りながら改善を回す事が可能なため、最適化もしやすい。成功した場合の将来の成長性も計算しやすいためVCからの投資を集めやすい。
なぜデータドリブンな意思決定とオペレーションの改善が実現できるのか
- ユーザーとの接点がソフトウェア上になっているため、各種データを取りやすい
- またデータを元にしたオペレーション改善もソフトウェアで対応しやすい
なぜ機能ではなく世界観を通じた体験価値の提供を重視するのか
- ミレニアル世代の特徴として、モノではなくコトの方を大事にする価値観をもっているため
D2Cの本質
本質的に重要なのは、価値あるデータをあつめ、それを分析し、データドリブンで高速にオペレーションを改善すること。そしてデータや顧客との直接的な対話から、顧客の持つより本質的な課題を見つけ、それを解決するプロダクトを正しく提供する、プロダクト自身も改善していくこと。そしてそのサイクルを高速に回すことである。
より価値あるデータを集める、顧客の本質的な課題を見つけるために、ソフトウェア(SNS、EC)を通して直接顧客との接点を持つ。
ミレニアル世代をターゲットとするのは、あくまでデジタル経由のコミュニケーションや購買行動のハードルが低い、かつアメリカにおいては非常に大きな人口割合を占めているからである。
機能ではなく世界観を通じた体験価値を提供しているのは、ミレニアル世代をターゲットするために必要だからである。
D2Cから学んで既存メーカーが取り組むべき戦略はなにか
D2Cでの成功例をみて、いきなりSNSをやる、ECをやるというのは違う。
重要なのは価値あるデータを集めること、データドリブンで意思決定し、高速にオペレーションや商品開発を改善していくことにある。
つまり既存メーカーがまず取り組むべきは、いま持っているまたは得られるデータを集め、分析し、それをもとに意思決定し、改善するというサイクルを回すこと。そのための土台を整えることである。
その土台をもとに既存事業のオペレーションや商品改善サイクルを回していき、成功体験を作ること。
その後、ミレニアル世代を中心とした顧客層と直接つながるための販売チャネル、コミュニケーションチャネルを確立し、そこで得たデータや顧客の課題をもとに新たな商品を作っていくという順番が正しいだろう。